蟷螂さんに、住んでいるマンションのすぐ前まで送ってもらった。(蟷螂さんは私が一人暮らしなのを知らなかったらしく、驚いていた)
もうすぐ午後八時だ。すっかり遅くなってしまった。お礼を言って蟷螂さんと別れて、私は屋内に入ろうとした――そのとき。


――あれ?


「海亀さん!」


どうやら私の声は海亀さんに届いたらしい。マンションの前の歩道にいた海亀さんは、くるりとこちらに顔を向けた。私は海亀さんのいる歩道まで走っていった。


「随分帰りが遅いな」


すっと海亀さんの目が細められた。まずい、これはお説教される前兆だ。


「いや、まぁ…それよりも、海亀さんも今日は遅いんですね」
「…ふん」


そっぽを向いた海亀さんに、こりゃ会社でトラブルか何かでもあったな、と察した私は、それ以上追及しなかった。とりあえず、説教に入らなかっただけ良かったとする。


「…あぁ、そうだ!」


しかし、代わりに不機嫌モードに突入してしまった海亀さんの機嫌を、何とか直そうと、私はこう切り出した。


「私、今度近い内におでんでも作ろうかなって考えてるんですよ。食べます?」


以前におでんをお裾分けしたことがあったのだが、そのおでんを海亀さんがいたく気に入ってくれたのを覚えていたのだ。


「……ふむ、貰っておこう」


案の定返ってきた答えに、私はにこりと笑った。