「そうですか、そんなことが…」
「うん、さすがの私でも眠気が吹っ飛んだよ」
結局、昼休みになっても白鷺くんが教室に帰ってくる様子はなかった。宇練先生のチョーク投げにはそれだけの威力があるということだろう。そのことも含めて、今目の前に座っている蜜蜂くんに話をしたら、「肝に銘じておきます」と返ってきた。
今日は天気が良かったので、私たちは屋上で昼食を取っている。本当は屋上は立ち入り禁止なんだけれど、こないだ蝙蝠が勝手に作った、屋上の鍵の合い鍵をもらったのだ。
なので、こんな天気の良い日の屋上だけれど、ここには私と蜜蜂くんしかいなかった。
「…ところで、さん」
「何?」
「いいんですか、僕なんかとお弁当食べて」
「いいんですかって…蜜蜂くんが誘って来たんでしょ?」
「それはそうなんですけど…」
そこまで言って、蜜蜂くんは黙ってしまった。
腑に落ちないといった風の蜜蜂くんに、首を傾げるようにして言葉の先を促す。
「……いえ、何でもありません」
蜜蜂くんの言葉に、今度はこっちが納得いかなかったけれど、まぁ根掘り葉掘り聞く必要もないだろう。そう判断して、私はお弁当を食べるのを再開することにした。
そんな私の様子を少しの間見ていた蜜蜂くんが、不意に口を開く。
「そのお弁当、さんが全部作ってるんですか?」
「んーん、全部ってわけじゃないよ。この唐揚げとかは冷凍」
「こっちの卵焼きは?」
「それは今朝作って…、…あ」
聞き終えるより早く、蜜蜂くんが伸ばした箸によって、私の弁当箱にあった卵焼きは姿を消した。
「美味しいですね」
ぱくり、とその卵焼きを口に含んだ蜜蜂くんは、そう言った。
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