人鳥くんと別れて学校に辿り着いた私は、特に寄り道することもなく自分の教室へと足を運んでいた。
階段を上って、二階の廊下へ一歩足を踏み出した、その瞬間だった。
ぐわし、と私は後ろから頭を掴まれ、そのままぎりぎりと締め付けられた。
「随分ぼーっとしてんじゃねぇか」
「いいい痛い痛い痛い!」
背後から聞こえる覚えのある声に、私は非難の色を込めてそう叫んだ。
「このばか、蝙蝠やめろ!」
「蝙蝠、ちゃん痛がってるだろ。やめとけって」
私の言葉ではなく、聞こえたもう一人の声を受けて、蝙蝠の私の頭を掴む力が若干緩んだ。
その隙に蝙蝠の腕を払って、私は少し距離を置いて二人に向かい合う。
「お心遣い感謝します川獺先輩」
「いえいえ」
人の良い笑顔を浮かべて、気にするなというように小さく手を振ってくれる川獺先輩。ああ、こういうのが『先輩』だと思うのだ、私は。
私はぺこりと川獺先輩に頭を下げると、キッと蝙蝠を睨みつけた。
「もう少し先輩らしくできないのか、蝙蝠!」
「おいおい、先輩に向かってその口の利き方はねーんじゃねぇの、後輩ちゃんよ」
「私は自分がお前の後輩だと思ったことは一度もない!それに会ってすぐヘッドロックしてくる奴を先輩だとは思わない!」
「きゃはきゃは、まぁ俺なりの愛情表現ってやつだ。受け取っておけよ」
「いらん!」
我ながら、唸り声まで上げてしまいそうな勢いだったと思う。
蝙蝠はやれやれといった風に肩を竦めてみせる。その行動にもいらりと来るものがある。
「まぁ、落ち着けってちゃん。ほら、もうすぐ担任来るんじゃないの?」
川獺先輩がそう仲裁に入ってくれなければ、私はずっと蝙蝠を睨み続けていただろう。
はっと気付いて時間を見たら、いかん、もう一分もない!
「ありがとうございます川獺先輩!蝙蝠は果てろ!」
私はお礼を言いつつそう言い捨てて、教室へと駆け出した。
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