「………眠い」


ぼそりと呟いて、私は大きく伸びをした。
昨日の夜、録画して溜めていたテレビドラマを見ていたら、すっかり寝るのが遅くなってしまった。全く持って時間の経過とは恐ろしいものだ。恐らく睡眠時間は三時間も取れていないだろう。
今日の授業は寝ずにやり過ごせる自信がないな、などと考えながら、私はのろのろと歩いて登校していた。まぁ、いいや。授業で寝てしまったら、後で誰かにノートを見せてもらおう。


「ん」


そのとき、私は初めて、自分の前方にある姿に気が付いた。
よく見知ったその後ろ姿に、その距離に見合っただけの声量で声を掛ける。


「おーい、人鳥くーん!」
「!!!」


いきなり声を掛けたことで、人鳥くんは肩を大きくびくりと震わせた。
まるでブリキのおもちゃを思わせるようなぎこちなさで、人鳥くんはこちらを向く。ぎぎぎ、という軋みの音まで聞こえて来そうだ。…うーん、そんなに吃驚しなくてもいいと思うのだけれど。


…さん」
「おはよう。登校中ならご一緒してもいいかな」


人鳥くんに駆け寄りながら私はそう言った。人鳥くんは一瞬戸惑う素振りを見せながらも、こくりと一度頷いてくれたので、その姿に自然と笑みがこぼれた。