「いやさ、全く持って日頃の鍛練というのは大切なものだ」

開口一番、茂みに潜んでいた男はそう言った。
己を囲む十一のしのびの者を前にして、男は笑う。
その大きな目を歪めて、笑う。

「俺の忍法ってのはよ…要するに、あそこで音がした、ここで音がした、っていうのを相手に錯覚させるものなんだ。実際にそこで音がしているわけじゃないし、忍法に掛かっていない奴には聞こえない。この聞こえる音は即物的なものじゃないから、忍法使った俺が近くにいなくても、一旦術にはまっちまえば、音は半永続的にそいつに聞こえ続けるんだ――」

男はとうとうと説明してみせた。
その言葉に意味はなく、また偽りもなかったが、男を囲む十一人のしのびにそれを判断する術はない。結果として、そのしのびたちの警戒心を更に煽るだけにしかならなかった。
その結果は勿論、男も見越していたことだった。改めてそれらを見回し――男は、今度は自嘲的に、笑う。

木菟は、知っていたのだ。彼女が今日、全ての決着を付ける気でいることを。
耳にしたのは偶然だった。もし任務が予定よりも早く片付いていなければ、そしてもし帰りの道に違う道を選んでいたのなら、木菟は今日このことを知らないでいただろう。
そして、木菟はその偶然に感謝する。
彼女はもう、真庭鳳凰の元へ辿り着いただろうか。

「――全くどうして、こんなことをしたんだろうな」

男の言葉など、誰も聞いてはいなかった。
十一人のしのびの内の一人が、痺れを切らしたように口を開く。

「…女をどこへやった」
「さてね、自主独立、自分で考えてみりゃあいいだろ」





11.04.01