――我にとってとはどういった存在なのか、改めて考えることもまた、奇妙な話であると思う。

夜も遅い中、昨晩よりやや強い風に吹かれながら、真庭鳳凰はそう懐古した。
その思考の理由は、至って簡単で単純なものである。
何故なら彼は、あの日からずっと、逃げていった彼女の後ろ姿を忘れられずにいるのだから。
だから、ようやく会えた、と思った。
まさかあのような場で再会することになるとは思ってはいなかった。あの日から、彼女がしのびの者をやめていたとしてもおかしくはなかった。しかし彼女はやめていなかった。その道を汚いと思いながらその中で葛藤しながら生きていた。そうであることを鳳凰は喜ばしく思ったし、そこについて弁解するつもりはない。


自分が彼女に向けているものが、純粋な愛情と呼べるものではないと、彼自身もわかっている。
もしもの話だ。
もしも、『真庭の里に来い』という鳳凰の誘いを、彼女が断っていたとしたら、――
鳳凰はふっと息を零して、考えることをやめた。そんなことなど、考えたところでどうしようもない。答えなど、あってないようなものだ。


例えばこれが他のしのびなら…例えば、木菟なら、どうしただろうな。


ふと思ったところで、空気が少し風向きを変えた。目を向ければ、そこにいたのは他でもない忍び装束に身を包んだで、鳳凰は小さく「行くか」と告げた。





11.03.08