がやりと煩い町中で、私は誰に呼ばれたわけでもないのに、まるで引き留められたかのように後ろを振り向いた。
糸で手繰られるように私の目が向いた先にいたのは、二人の男女だった。
二人は小間物屋の店頭に並んだ、綺麗な小物を見ていた。櫛やら簪やら、どうにも私には縁のないものばかりが置かれているその場所で、二人は互いに笑顔を向け合っていた。男は、女に何か贈るつもりでいるのだろうか。
その姿は傍から見ればとても微笑ましいもので、頬を染める女が素直に可愛らしいと思った。
一体これは、いつの記憶であろう。
ただ、やたらに羨ましかったのは覚えている。
多分、ああやって笑みを向け合うあの男女の間に、隠し事なんてものは存在しないのだろう。知られてしまえば致命的な傷になるような、そんなものは最初からなくて、
きっと二人は、お互いの心の大部分でも一部分でも、確かに大切などこかを共有しているんだろう。
羨ましかった。
私には、縁のないことだと思ったから。
だから、それ以上見ていることができなかった。
私はそこで、少しだけ俯いて、そのまま踵を返した。
その日、人を殺してきた帰りだった。


私はあの人が死んだのを見てから今に至るまで、ずっとずっと利己的に人を殺してきて、もう戻れないところまで来て、
でも、それでも、
どこかでそういうもう一人をさがしていたことは、隠しようのない事実だったのだ。
我が儘は言わない。ただ、一人だけでいい。
だから、あの人が私の内心を言い当ててくれたときは、気持ち悪さよりも嬉しさの方が勝っていたんだと思う。




だから、
だから、私は






10.12.12