今日はハロウィンだった。


「…やめておいたら?」


朝、授業道具を入れるものとは別に手提げのバッグを持って行ったら、狂犬ちゃんに第一声そう言われた。
直感に敏い彼女は、その何も入っていないバッグが意味することを、見た瞬間に勘付いたらしい。


「どうして…!私がどれほどこの日を楽しみにしてきたと…!」
「いや、それは知ってるんだけどね。でも、多分ろくなことがないと思う」
「何がなんでどうしてこんな、色んな人からただでお菓子を貰える日をみすみす逃せと!?」
「どれだけ飢えてるのよ」


狂犬ちゃんは呆れたように溜息をついたけれど、今日ばかりは譲れない。
先程言ったように、今日は公然とお菓子をねだることができ、そしてお菓子をくれないような不埒な輩には相応の制裁を下すことが許される日なのだ。お菓子が貰えるか、日頃のストレスも解消できるかの二択だなんて、私にとってはこれ以上嬉しい選択はないほどの選択である。
それを狂犬ちゃんに力説したところ、さっきのよりも深い溜息と共に


「ハロウィンってもっと純粋な行事だったと思うけど」


との返答を頂いた。私の見解が不純だと言いたいらしい。


「と、いうわけで!」


私はそこで声を切り替えて、改めて狂犬ちゃんと向かい合った。


「狂犬ちゃん、トリックオアトリート!」
「持ってないわよ」


一気に落とされた。
狂犬ちゃんに対しての悪戯も、ほとんど考えてもいなかった。狂犬ちゃんに対して恨みなんてあるわけがないし、まさか朝からこんなに気分落とされるだなんて思ってはいなかったからだ。
やがて、ずどーんと肩を落とした私の頭上から、笑い声が聞こえてきた。快く軽い笑い声は、間違いなく狂犬ちゃんのものである。


「冗談よ。はい」


私の頭に、何か乗る感触。
がばっと頭を上げて(頭の上のものは落とさないように気をつけながら)見れば、それは小さい袋に入ったクッキーだった。


「きょ、狂犬ちゃん!あああ、ありがとう!」
「どーいたしまして」


にこりと笑った狂犬ちゃんに、私も昨日焼いてきたクッキーの小袋をあげた。結果的にクッキーの交換みたいになってしまったけれど、それも面白くていいんじゃないかと思う。
私は狂犬ちゃんから貰ったそのクッキーを、大事に手提げのバッグの中に入れた。




 


10.11.01