飛び模様の夢




狂犬・鴛鴦の場合
蝙蝠の場合
白鷺の場合
喰鮫の場合
蟷螂の場合
蝶々の場合
蜜蜂の場合
川獺の場合
海亀の場合
人鳥の場合
鳳凰の場合




















































































 









「…へ、変じゃありませんか?」
恐る恐る、私はそう言って、目の前の二人を伺い見た。
「ちっとも変じゃないわ、ねぇ鴛鴦ちゃん!」
「よく似合ってるよ」


私は少し唸って、真新しい小袖のそでをつまんでみたりする。
確かに、すごく綺麗な小袖だと思う。赤っぽい色を基調にして、所々の金糸がよく映えている。


これは、今日鴛鴦さんと狂犬ちゃんが持ってきてくれたものだ。まだ誰が着た形跡もないから、多分二人が買ってきてくれたんだろう。
もしかしてもしかしなくても、とっても高い買い物だったんじゃあ…そう思うと気が引けたが、そんな私の心情を読んだらしい狂犬ちゃんが、私の頭にぼすっと手を置いた。


「あんたはいーの、そんなこと気にしなくて」
「でも…」
「ほら、いつまでここにいる気だい?行くよ」
「え?行くってどこに」
「あんた、普段こうやって着飾ることもないでしょ?」
「あ、あぁ、はい、まぁ」
「だから、野兎ちゃんがこれを着た暁には、お披露目会と洒落込もうか、なんてあたしたちで話してたのよ」
「え、ええええええ!!」


なんだその小っ恥ずかしい企画は!


「だいじょーぶよ、ちゃんと影で見守ってるから」


どうせなら一緒にいてください!
私の反抗の余地もなく、あっという間に私は鴛鴦さんに抱えられて、連行されていってしまった。




真庭狂犬・真庭鴛鴦の策謀




























 













「………」
「………」
「…きゃはきゃは、馬子にも衣装っつーのはこのことかぁ?」
「!!ううううるさい!黙れよ蝙蝠!」
「おいおい、そんな言葉使っていいのかよ。ただでさえ中身が伴ってねぇっつーのによ!」
「うるさい笑うな!」
「選んだのはお前じゃねーだろ?」
「う、うん。鴛鴦さんと狂犬ちゃん」
「なるほどいいの選んでんな。まぁ、お前じゃなくて鴛鴦がこれ着た方が良かったとは思っちゃうけどな、きゃはきゃは!」
「ど…どうせ似合わないよ!どうせ私には色気もなにもないよ!」
「…とまあ、それは冗談で」
「え?」
「似合ってんぜ」
「!!!」


蝙蝠は、何事もなかったかのように笑っていた。




調子が狂いました




























 













「かぇねゃじいい」
「ほ、本当ですか…?」
「よだんなげさな信自になんそ何。ろだいなもで玉なんそ」
「何か、折角の綺麗な着物なのに、私なんかが着ていいのかなーって」
「ろだいいらかるてっ合似。…だうそ、ああ」
「?」


白鷺さんは何やらごそごそしている。


「よるや、れこ」
「いいいいいんですか!?」
「ああ。たっか良度丁らな好格のそ、がだんたけつ見きとの務任の前のこ」




櫛を貰いました




























 













「いいですね、いいですね、いいですね…いつもと違う貴女というのも、いいですね」
「どうして出てくるんですか呼んでもいないのに」
「おやおや、随分とつれないですね、つれないですね…しかし、つれない貴女もいいですね」
「いやあのとりあえずどこかに行ってくれま…って、どこ触ってんですか!」
「ちょっとした愛情表現ですので、どうかお気になさらず」
「気になります!触らないでください!離れてください!」
「そうは言われましても、私には離れるつもりもないのですよ」
「いいから離れ…なんだこいつどこからこんな力が!」
「いいですね、いいですね、貴女を私の好きにできるとは、いいですね!」
「ああああ助けて鴛鴦さーん!!」




いつも通りでした



























 













「………」


蟷螂どのは、ぽかんとした表情でこちらを見ている。


「…変ですか?」
「……そういうわけではない、が」
「ど、どうかしましたか?何か不都合でも、」
「いや、そういうことでもない。よく似合っている」
「あ、ありがとうございます!」
「…ああ」
「…?どうしたんですか、蟷螂さん。顔が赤いですけ…」




頭を撫でられました
































 













「お、似合うじゃねぇか」
「そうですか?」
「どうしたんだ、この小袖。お前、いつもこういうの頓着しないだろ」
「鴛鴦さんと狂犬ちゃんが選んで買ってくれたんです」


鴛鴦さんの名前が出た瞬間、蝶々さんの表情が変わった。


「…鴛鴦が?」
「はい」
「…そういやよ、たまに、あいつもこういうの着てみせてくれるんだよ」
「あ、そうなんですか」
「あいつ、基本的にどんなものでも似合うからな」
「そうですね」
「また今度着てくんねぇかな」




惚気られました




























 













「…すごく似合いますね」
「あ、本当?」
「はい、狂犬さんから聞いてはいたんですけど、…吃驚しました」
「狂犬ちゃんから?」
「あ、とは言っても、呟いていたのを聞いた程度なんですけどね」
「へぇ…」
「でも、想像してたよりもずっと似合ってます」
「う…そんなに褒めても何もでないぞ蜜蜂くん」
「いえ、そういうつもりはないですよ。本心から…可愛らしいと思います」


蜜蜂くんがあんまり褒めるので、何だか照れくさくなってしまった


「これ以上はやめてくれたまえよ蜜蜂くん…このままでは君に惚れてしまう」
「どうぞ、惚れてください」
「…!?」




告白されてしまいました




























 













「………」
「……どうしました川獺先輩」


川獺先輩は困ったように目を逸らした。


「どうしたんだ、その小袖」
「あ、鴛鴦さんと狂犬ちゃんが」
「そ、そうか」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「…あの、変ですか?」
「い、いや、そういうわけじゃないけどよ!」
「どうしたんですか、川獺先輩。何だか変ですよ」
「仕方ないだろ!予想以上に可愛かっ……あ」




うっかり褒めてもらえました




























 













「ふむ、よいのではないか?」
「…ありがとうございます」
「何だ、浮かない顔をしておるな。誰かに何か言われたのか?」
「いや、そうではなくて…やっぱりこういう高そうなもの、気が引けちゃうなぁ、と思って」
「…おぬしがそこまで懸念することではないと思うがなあ」
「そういうものですか」
「買った側はおぬしに着て貰うためにしたのだから、その好意は受け取って置くべきであろう」
「…そうですね、わかりました!」


海亀さんは満足そうに笑うと、右の手を差し出して来た。


「……なんですか、その手は?」
「世の中には相談料というものがある」




どうしてこうなった




























 













「あ!人鳥くん!」
「こ、こここんにちは」


人鳥くんはとても居づらそうにしていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「あ、あの!」
「ん?」
「そそ、その着物、すごく似合ってます!」
「!!」
「……!」
「ありがと…あ、え、どこ行くの人鳥くん!」




とても癒されました
































 









「ほう、着たのだな」
「どうですか?あんまり綺麗な小袖なんで、どうにも私には不釣り合いじゃないかと…」
「そう言うな。お前は我の顔に泥を塗るつもりか?」
「…え?そ、それは、…」
「そのままの意味だ。ふむ、我の見立てた通りだな。よく似合っておる」
「え…、ちょ、鴛鴦さんと狂犬ちゃん、鳳凰さんがくれたなんて一言も…!」
「大方、我からの贈り物だと知れば、お前が受け取らぬと見越してのことだったのだろう」
「……」
「実際そうだったのであろう?」
「…はい。だって私、鳳凰さんからいつも貰ってばかりで」


鳳凰さんは可笑しそうにふっと笑うと、ちょいちょいと私を手招きした。


「何ですか?」
「………」
「…?」
「全く、お前は無防備が過ぎる」
「う、うあっ!」




抱き締められました





10.04.16(一万Hitありがとう!)