貴方は本当にわけのわからない方ですね。
あの人の直属の部下となってから、私は何度この言葉を呟いたかわからない。
その度にあの人は笑うかのように息を吐き出すか、華麗にスルーするかのどちらかなのだけれど、私はあの人がこの発言に対して、私にとっての有意義な反応を返すのを見たことがなかった。
だって仕方がない。事実なのだから。
私はあの人が何よりもわからない。何を考えているのか、何をしようとしているのか、ひとつもわからない。なんとなく、その点に関してはベグニオンの大将さんを思い出すけれど、それはきっと気のせいだろう。
「……」
しかし、それよりもアイク達はどうしているだろうか。セネリオは、持ち前の頭脳で団を支えているんだろう。ミストは元気だろうか。ボーレはまた斧壊してたりしないだろうか。もしかしてティアマトさんに怒られてたりして。シノンはきっと相変わらず口が悪くて、ガトリーもきっと相変わらず…なんだろうな。オスカーの料理、食べたいな。ヨファ、弓の腕はどうなったかな。怪我とかしてキルロイに迷惑掛けてないよね。
その中に、グレイル団長は、いない。
「…懐古、終了」
皆の顔を頭に思い浮かべる時間は、日に日に長くなっていった。何故なら、アイク率いるクリミアの軍隊が、ベグニオンの後ろ盾を得て、どんどんこちらへ進攻していると聞いたからだ。
漆黒の騎士とも、遠からずぶつかることになるだろう。
「…アイク」
やっぱり、仇をとるつもりなんだろうか。
だとすれば、私の出番はないだろう。
グレイル団長が殺されて、私は仇をとってやろうと団を抜けた。元々、団の中での仕事は裏方(あんまりいい意味はない)だったから、顔は割れていない。そう思って、漆黒の騎士に近付いた。
でも、アイクが私と同じ心持なら、私よりもアイクが優先されるべきだ。
懐かしい傭兵団。とても落ち着く、あの場所。
「…誰も、死んでないよね…」
死んでたりなんかしたら、ぶん殴ってやる。
そう思ったりもしたけれど、でも私にはそもそもそんな権利なんてないんだ。彼らの前では、私はただの裏切り者に過ぎない。
事実…そうなのだ。
私は、殺そうと思って近付いた男に、いつの間にか、惹かれてしまっていたのだから。
それは一人の女の情としてではなく、ただ単純に、人として。
そのわけのわからなさに、惹かれたのだ。
次に、彼らと会うとき、私がどうするかは、今の私にはわからなかった。
憧れて尊敬して崇拝して(そして誰よりも、殺したかったはずなのに)
08.11.19