「みんな、いなくなっちゃったねぇ」
戦争が終わった。
とてもとても、大きな戦争だった。私が今まで、経験したことがないくらいに。
あたしが大切にしていたものは全部ぜんぶぜんぶ、その戦争が奪っていった。
「全部、なくなっちゃった、ね、ラガルト」
「…そうだな」
膝を抱えて座り込むあたしの、その隣にいる淡い紫の綺麗な髪をした男のひとは、それ以上の言葉を発しなかった。ただ、私が問い掛ける言葉にだけ反応を返す。きっと気を遣ってくれているんだろう、そう思った。
「…あたしね、黒い牙が本当にだいすきだったんだ。みんな、みんなあったかくて、家族みたいだった」
「……」
「でも…皆、死んじゃったね」
ラガルトは言葉を返さなかった。ふとみたラガルトの目は、哀しそうだった。あたしは彼ほど表情を隠せている自信はないけど、でもきっと彼と同じような目をしているんだろう。
首領、ロイド、ライナス、……。皆、死んでしまった。
アイシャの名前は言わないで置いた。言ってしまったら、ラガルトはもっと哀しい顔をするだろうから。だって、彼女のことに関しては、彼はきっと誰よりも罪深い。
「ニノはエリウッド様についてくんだってさ」
「そうか」
「ラガルトは…どうせ、行くとこないんでしょ?」
「断定的だねぇ…、でも、まぁそういうことになるかな」
「そっか、ならあたし、ラガルトについてく。迷惑かな?」
「かなり」
「ははっ」
ラガルトも、あたしの横で口元を緩めた。哀しい顔をしたままだったけれど。落ちる日の光に浮き彫りにされたその横顔は、たしかにとても綺麗だった。
私たちは、生きてるんだ。
これからも、きっと生きるんだ。
褪せることのない、
(思い出なんかじゃない。それは確かに過去で、褪せることなどないだろう)
08.09.19(ニノとジャファルはくっついてない方向で)