「おせぇんだよ」


夜も遅くだった。思ったよりも手間取ってしまった仕事。つい先ほど、とてもお腹が減っていることに気付いた私は、傭兵団が現在拠点としている砦の、食堂として利用している場所へ向かったのだが。どうやら、先客がいたようで。
席について酒を煽っているシノンがいた。


「シノン、…何してんの、こんな時間まで」
「別に何でもいいだろ。それよりも、珍しいんじゃねーか?お前がこんなにも手間取るなんてよ」


酒が入っているせいか、何か絡んでくる。確かに彼はいつも口が悪いけれど、それでも今回のは何故だか少しむっと来た。図星を突かれたからかもしれないし、やっぱりこちらも苛々しているのかもしれなかった。


「それこそ何だっていいじゃない。それよりもシノン、そろそろ布団に入ったら?明日も忙しいっていうのに」


シノンがもう一杯、酒をくいっと口に含んだところで、私はさっきのシノンと同じ様に言葉を返した。けれど、シノンはごくりとその酒を嚥下しただけだった。
……駄目だ、聞きやしない。
私はひとつ、溜息を吐いて、食堂を出ようと踵を返した。今日は体を拭いてもう寝よう。お腹は空いているけれど、明日の朝食当番はオスカーだ。美味しい朝食をより美味しく食べるためにも、このお腹は空かせたままにしておくのも悪くない。


「おい」


あと一歩で食堂の外へ出るというときに、後ろから声が掛かった。振り向くと、シノンの翡翠色の眸が私へ向いていた。


「どうせ暇なんだろ?」
「暇じゃないよ。もう寝る」


「一杯付き合えよ」






夜更かしの理由は君にある(何のために此処にいたと思ってんだ)
08.09.15