「私たちは、とても恵まれていると思います」
白い衣服を纏った司祭はそう言って、緩やかに微笑んだ。
この少女は、アイクの軍の一員となったときには、既に彼の下で彼らを助けていたベオクだ。橙の髪をした司祭とよく行動を共にしているようだけれど。
ティバーンは、この少女のことを『面白い奴』と表現していて、それなりに接点もあったようだけれど、私自身は、彼女と顔をあわせることはあっても、談笑などと洒落込むようなことはなかった。
けれど、一度だけ、話をしたことがある。
「だって、まだ、幸せを願える余裕があるんですから」
自分には、この少女の真意は掴めない。
それが、彼女との会話の感想だった。
「どんな絶望的な状況にあっても、ほら、アイクなんかが特に顕著ですけれど、私たち、常に明日を見据えているでしょう?」
未来に、希望を持っていますでしょう?
彼女の言葉には、奇妙なほどの説得力あった。
ああ、きっと、これがセリノスが燃やされた直後だったのなら、自分はこの言葉を真っ向から否定しただろう。
けれど、今の自分はそれをしなかった。
自分の中で何かがゆるやかに変わりつつあるそれを、彼女に指摘されたような気がした。不愉快に感じるかと思ったが、そんなことはまるでなかった。
「そういう意味では、貴方だって希望の一縷なんですよ、セリノスの鷺王子」
そして、やはり彼女は笑った。なるほど、ティバーンに『面白い』と言わせるだけのことはある。彼女の笑顔は、とても暖かい。
そのとき、自分はとても口惜しく思った。何故彼女と、こうまで接点を持たなかったのだろうと。ティバーンが酷く羨ましく感じた。
もっと、彼女と話してみたいと、彼女を知ってみたいと思った。
幸せを願えるシアワセ
08.09.24