私は、他人の体温を知らずに育った。
母親は気付いたらいなかった。いたのは父親だけで、それすらも、父親と呼べるような存在じゃあなかった。いつだって疎ましく感じているような、そんな目で私を見る。私の暴力を振るうことはなかったけれど、でも何より、私にとってはそれがとても痛かった。
それもこれも、私の肩にある印のせい。
そんな父の目に耐えられなくなって、私はいつか、家を飛び出した。父親が見ている間で行われた逃走劇だったけれど、父親は私をとめるようなことはしなかった。
私の家は、決して裕福ではなかった。有り金も全て使い果たして、行き倒れてしまった私を、ひとつの傭兵団が拾ってくれた。
それからの私は、ひたすらに自分を隠して暮らした。肩を出すような衣装なんて着ない。悟られないように、いつも明るく振舞った。そのでの暮らしは、いつだって楽しかった。
でも、彼らが知っているのは、本当の私ではない。そのことに打ちのめされることが度々あった。その傭兵団の参謀だけは、いつも、父親と同じ目で私を見ていた。そのとき、胸がいつもきゅうと苦しくなる。
槍の使い方を教えてもらって、それも板について来たころ、私たちはこの国の女王と会って、ひとつの大きな戦乱に巻き込まれることとなった。
熱砂の地獄。足を取られる。そんな中で、私は一息ついた。そのときに、彼は現れた。
「…これからも、ただひたむきに己を押し隠す気か?」
彼は気付いたらそこにいて、私は驚かされた。けれど何よりも、私の深奥の心理を言い当てられたことに、驚愕を覚えさせられた。
「………」
そんなことはわかっている。自分を偽るのだって、他人よりも遅い成長を見れば、それが不可能なことくらい。
答えない私に、彼はふ、と軽く息を漏らした。
「私と来い、同胞よ」
その声はとても温かかった。
近くの体温
08.09.25