「私ってね、空を飛ぶのが夢だったんですよ」
「夢って…あんた、今飛んでるだろ?」
「いや、そうじゃなくて…ヤナフさんみたいに、背中に翼があったらいいなぁって」

そう言うと、飛竜に跨ったは何故だか可笑しそうに笑った。

「やめとけ、『半獣』なんて蔑まれるのが落ちだ」
「特に構いませんよ」

俺はそんなを横目にちらりと窺って、その柔らかい表情を見た。
改めて変な奴だと、そう思う。
初めて会ったときからそうだった。元々デインの兵士であったにも関わらず、彼女はラグズを半獣と呼ぶことはしなかった。
博学だが、頭が固いわけではない。それが彼女の持ち味だった。初めはその飄々とした態度と共にそれも気に入らなかったのが、今では段々にそれも受け入れ始めている自分がいる。

「でも、この子に出会ってから、ちょっとだけ別の考え方ができるようになったんですよね」

そう言って、は飛竜の首を優しく撫でた。飛竜は気持ち良さそうに、やや首をもたげる。

「私が望んでいたことはこの子が叶えてくれる――って、思えるようになったんです。
 実際、私たちってそんなものだと思うんですよね。お互いに補完しあっていけば、それでいいんじゃないかって」

そのときのがどのような表情をしているのか少し気になって見てみたら、案の定、彼女の口元は緩やかな孤を描いていた。
よく笑う奴だな、そう思ったところで、彼女がこちらを向いたので、それに驚いた心臓がどきりと跳ねた。思わずして咄嗟に目を逸らしたけれど、一瞬遅かったのだろう。彼女はくすりと声を漏らして、言葉を紡ぐ。

「だから、あなたに会えて良かったと思いますよ、ヤナフさん」

反則だろう、それは。
思ったところで口に出せるわけもなく、自分はその代わりとなる言葉を彼女へと向けた。

「ま、そんなもんか」


を喰う雲
09.03.28